ハンガリーは、旧共産圏のポーランド、チェコスロバキア、ルーマニアなどと共にかつては大量の切手を発行していました(現在も決して少なくはないですが)。とくに動物、絵画、乗り物などいわゆるトピカルと言われるあるテーマの図案を描いた切手を同時に何種類もセットで発行していました。大量発行の流れは現在は西インド諸島の島国に移った感があります。 蝶切手についても1959年に最初の7種のロングセットを発行して以来、1966年(9種)、1969年(8種)、1974年(7種)、1984年(7種)と何回もロングセットを発行しています。 1959年の最初のシリーズは、その昔切手集めをかじった中年の方なら一度は見たことがあるのではないかと思います。とくに低額のキアゲハの切手はその当時はまだあまり大型で綺麗な切手が少なかったことから、おみやげ用のパケットにはよく入っていたように記憶しています。当時の共産圏の切手はプリキャンセルと言ってあらかじめ消印をした使用済のセットも同時に販売していました。外貨稼ぎのためです。 |
1959.11.20 蝶蛾切手
キアゲハ Papilio machaon (アゲハチョウ科) |
チョウセンコムラサキ Apatura iris (タテハチョウ科) |
フチグロベニシジミ Heodes virgaureae (シジミチョウ科) |
シロスジヒトリ Ammobiota festiva (ヒトリガ科) |
アドニスヒメシジミ Lysandra bellargus ♂ (シジミチョウ科) |
ヨーロッパメンガタスズメ Acherontia atropos (スズメガ科) |
ヨーロッパアカタテハ Vanessa atalanta (タテハチョウ科) |
首都ブタペストで開催された国際切手展を記念して発行された4種のうちの1種に、コヒオドシが描かれました。最初の発行から2ヶ月も経たないうちに、背景色を銀色から金色に変えて再度発行されています。外貨獲得の切手発行に熱心なハンガリーならではのことです。 |
1961 ブタペスト国際切手展
1961.6.23 | 1961.8.19 |
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コヒオドシ Aglais urticae (タテハチョウ科) |
1962年には、切手の日の切手として4種の「切手の切手」を発行しました。そのうちの1種が1959年に発行された蝶切手を題材にしています。「切手の切手」とは、図柄の中にこれまで発行された別の切手を描いたデザインの切手の総称です。この切手のように、題材とする切手全体をそのまま取り入れたものから、切手の一部のみをデザインしたものまで色々あります。日本切手にも最近「切手の切手」が数多く発行されはじめました。 「切手の切手」は主題が切手そのものにあることから、純蝶切手ではなく準蝶切手として扱うべきですが、もとの切手をそのまま取り入れており、蝶もはっきりと描かれているので、あえて純蝶切手なみとして掲載しました。 |
1962.9.22 第35回切手の日
(準蝶切手)
ヨーロッパアカタテハ Vanessa atalanta (タテハチョウ科) |
1966年に9種の蝶蛾切手が発行されました。1959年の最初のシリーズとほぼ同じサイズの大型切手です。最初のシリーズは白の背景に白抜きの花がカラーシルエットになっていましたが、今回は淡いカラーでマージンを明確にしています。デザインとしては1959年のシリーズの方が優れており、個人的にも最初のシリーズが好きです。選ばれている蝶と蛾の種類は、最初のシリーズと重複することなくヨーロッパに普遍的に生息する種類が選ばれています。 テングチョウは、ヨーロッパ中南部、北アフリカからユーラシア大陸を経て日本や台湾にまで広く分布するテングチョウ科の代表的な種類です。テングチョウの名前の由来の通り、鼻(口吻)が長いのが特徴です。テングチョウ科に属する蝶は世界でも10種あまりと極めて数の少ないグループで、その大半は熱帯に生息しています。テングチョウ科はタテハチョウ科の亜科として分類されることもあるようですが、このグループは系統的に古い蝶といわれており、他に近縁のグループはありません。 |
1966.2.1 蝶蛾切手
シタベニヒトリ Callimorpha dominula (ヒトリガ科) |
クモマツマキチョウ Anthocharis cardamines (シロチョウ科) |
ダフニスヒメシジミ Meleageria daphnis (シジミチョウ科) |
ヨーロッパタイマイ Iphiclides podalirius (アゲハチョウ科) |
ベニモンマダラの一種 Zygaena carniolica (マダラガ科) |
タイスアゲハ Parnalius polyxena (アゲハチョウ科) |
キベリタテハ Nymphalis antiopa (タテハチョウ科) |
テングチョウ Libythea celtis (テングチョウ科) |
ダイダイモンキチョウ Colias croceus (シロチョウ科) |
1966年に引き続き1969年には8種の蝶蛾切手が発行されました。1959年、1966年のシリーズよりもやや大型のサイズになっており、まさに切手乱発による外貨獲得が最高潮時の発行です。背景色は2回目のシリーズよりも鮮やかで濃くなっており、蝶と蛾も大きく正確に描かれていることから、発行の是非はともかく、蝶切手としてはなかなか見栄えのする立派な仕上がりになっています。 |
1969.4.15 蝶蛾切手
ヨツモンシタベニヒトリ Callimorpha quadripunctaria (ヒトリガ科) |
ヨーロッパウチスズメ Smerinthus ocellatus (スズメガ科) |
ヒメアカタテハ Vanessa cardui (タテハチョウ科) |
ヨーロッパフタオチョウ Charaxes jasius (タテハチョウ科) |
テルサモンベニシジミ Thersamonia thersamon ♀ (シジミチョウ科) |
アリオンゴマシジミ Maculinea arion ♀ (シジミチョウ科) |
ヨーロッパオニベニシタバ Catocala sponsa (ヤガ科) |
クジャクチョウ Inachis io (タテハチョウ科) |
1973年にも国際切手展を記念して発行された「切手の切手」8種のうちの1種が、1961年に発行されたコヒオドシを描く切手でした。手抜きのデザインで、単に収集家を目当てにした安易な発行としか思えません。 |
1973.5.11 国際切手展
(準蝶切手)
コヒオドシ Aglais urticae (タテハチョウ科) |
1980年には花と昆虫を描く6種のシリーズが発行されました。蝶はヨーロッパアカタテハの1種のみです。 |
1980.1.25 花と昆虫
ヨーロッパアカタテハ Vanessa atalanta (タテハチョウ科) |
1984年にはとうとう自国とは無関係の熱帯の蝶を描いたシリーズを発行しました。南米のキプリスモルフォ、ニューギニアのゴクラクトリバネアゲハなど熱帯の華麗な蝶を集めています。 |
1984.6.7 蝶切手
ベニオビムラサキタテハの一種 Epiphile dilecta (タテハチョウ科) |
クラウディナアグリアス Agrias claudida ♀ (タテハチョウ科) |
キプリスモルフォ Morpho cypris ♂ (モルフォチョウ科) |
ミイロシジミタテハ Ancyluris formosissima (シジミタテハ科) |
カバマダラ Anosia chrysippus (マダラチョウ科) |
ベニオビウズマキタテハ Callicore cynosura (タテハチョウ科) |
ゴクラクトリバネアゲハ Ornithoptera paradisea ♂ (アゲハチョウ科) |