シロチョウ科のクモマツマキチョウは、ヨーロッパからアジアの温帯域、そして日本の山岳地帯にかけて生息しています。ヨーロッパではごく普通の種類で一般にも馴染みのある蝶ですが、日本では平地には見られず中部地方の高山にのみ分布しており、とくに新潟県姫川流域のクモマツマキチョウは、県の天然記念物に指定されています。 ヨーロッパでは、道端とか生け垣に沿って飛ぶほか、湿った牧草地や庭などでも姿を見ることができます。ヨーロッパ全域に広く分布することとその可憐な容姿から、各国の切手に頻繁に採り上げられています。日本からも1986年から1987年にかけて発行された昆虫シリーズの中の、小型シートに採り上げられました。小型シートの他に切手帳ペーンにもなっていますが、単片での発行はありません。 クモマツマキチョウにはヨーロッパからアジアまでいくつかの亜種がありますが、あまり大きな変化は無いようです。ただし、小アジア近辺のものには明らかに違いが見られます。レバノンの切手に描かれている種はオレンジチップと白との間に黒い部分があり、これはレバノンなど地中海東部にいる亜種 phoenissaの特徴です。 |
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1951.12.1 スイス |
1961.11.27 チェコスロバキア |
1963.9.29 アルバニア |
1966.2.1 ハンガリー |
1969.6.25 ルーマニア |
1984.12.14 ブルガリア |
1986.5.22 フィンランド |
1986.9.15 ベニン |
1987.3.12 日本 |
1993.2.23 ノルウェー |
亜種 A. c. phoenissa
1965.4.8 レバノン |
なぜ日本ではヨーロッパのように広く分布しないのかは、おそらく夏の高温多湿が原因と考えられています。クモマツマキチョウの幼虫と蛹は、低温や乾燥には強いのですが、湿気には弱いためのようです。ところで、クモマツマキチョウの幼虫は共食いで有名です。体の大きい幼虫は、自分より小さな幼虫を食べてしまいます。 成虫の雄は英名の Orange Tip が示すように、前翅の先端が鮮やかなオレンジ色をしています。雌にはこのオレンジ色の部分がなく、先端は黒色になっています。フィンランドと日本の切手には雄と雌の両方が描かれていますので、その特徴を比べてみてください。 雄も雌も春に花の蜜を吸うときには、翅の裏面を見せてとまります。翅の裏面は、ちょっと分かり難いですが、レバノンの切手にあるように緑色のまだら模様になっており、草木にとまっているときに目立たないようになっています。この裏面のまだら模様は、翅の表側にも透けて見えるため、上記の各国の切手でもそれが描かれています。この緑色は顕微鏡などで見ると、黄色と黒色の鱗粉が混じり合って作り出していることが分かります。一般に蝶には緑色の色素を持つ種類はごくまれです。 |