ルーマニア Romania

ルーマニアをはじめ東欧諸国からは、早い時期から蝶や蛾を描いた切手が数多く発行されています。ルーマニアからの最初の蝶切手は、1956年に発行された4種の昆虫切手の中のエゾシロチョウを描いた1種です。紫の背景に力強く描かれた翅脈が引き立ち、風格のある仕上がりになっています。

エゾシロチョウはかつて、ヨーロッパやアジアの温帯地域の果樹園や生け垣でごく普通に見られたシロチョウですが、なぜか数が減少してしまいました。日本でも北海道に分布します。幼虫はバラ科の樹木を広範囲に食べ、絹糸でかけた巣の中で集団で越冬します。


1956.6.30 昆虫切手

エゾシロチョウ
Aporia crataegi
(シロチョウ科)


1960年には蝶と蛾を描く6種の切手が発行されました。三角切手や◇型の切手を含んでいます。描かれている図案が稚拙で雑な仕上がりになっており、あまり好きなシリーズではありませんが、1960年という初期の発行であることから収集対象として外すわけにもいかず、私にとっては悩ましいシリーズです。そんな中でもヨーロッパメンガタスズメを描く切手は比較的出来のよい仕上がりになっています。オオクジャクヤママユを含め蛾を描く2種はいいのですが、蝶を描く4種の出来がひどい。


1960.10.10 蝶蛾切手

オオクジャクヤママユ
Limenitis populi
(ヤママユガ科)

オオイチモンジ
Limenitis populi
(タテハチョウ科)
フチグロベニシジミ
Heodes virgaureae
(シジミチョウ科)

キアゲハ
Papilio machaon
(アゲハチョウ科)
ヨーロッパメンガタスズメ
Acherontia atropos
(スズメガ科)
チョウセンコムラサキ
Apatura iris
(タテハチョウ科)


1962年8月に発行された子供の生活を描いた6種のセットの中の1種にヨーロッパアカタテハが描かれています。純蝶切手ではありませんが(準蝶切手と呼ぶ)、描かれている蝶はヨーロッパアカタテハであることがはっきりと分かります。


1962.8.25 子供の生活
(準蝶切手)

ヨーロッパアカタテハ
Vanessa atalanta
(タテハチョウ科)


1963年には、養蚕と養蜂をテーマにした8種の切手が発行されました。養蚕3種、養蜂5種です。養蚕3種には、カイコガの成虫、蛹と繭、幼虫が描かれています。養蜂5種にはヨーロッパミツバチが描かれています。


1963.12.14 養蚕・養蜂

カイコガ
Bombyx mori
(カイコガ科)


1964年にも8種の昆虫切手が発行され、そのうちの3種に蝶と蛾が描かれています。コベニシタヒトリはまだしも、害虫であるマイマイガが採り上げられたのはちょっと気になります。マイマイガはもともとヨーロッパやアジアの種でしたが、19世紀にアメリカの研究室から逃げ出して、今では北アメリカの森林の深刻な害虫となっています。描かれているのは雌ですが雄は淡い黄褐色でやや小型と、雌雄の差が大きい種です。雄は昼行性でよく飛びますが、雌はほとんど飛ばず羽化した場所からほとんど移動せず、口も退化し何も食べません。幼虫はどんな樹木の葉でも食べるため、森林の葉を食べ尽くす大害虫となります。北アメリカでは最大の害虫として恐れられていますが、ヨーロッパではそれほど深刻ではないようです。


1964.2.23 昆虫切手

コベニシタヒトリ
Rhyparioides metelkana ♀
(ヒトリガ科)
マイマイガ
Lymantria dispar ♀
(ドクガ科)
オオイチモンジジャノメ
Brintesia circe
(ジャノメチョウ科)


1969年には8種の蝶と蛾を描くロングセットが発行されました。私が蝶切手を本格的に集めだした頃に発行された想い出のあるシリーズです。蝶と蛾が図鑑的ではなくややデザイン化され、明るくカラフルな背景にとても可愛い仕上がりになっています。選ばれている蝶も日本にも生息するコムラサキ、モンキチョウ、クモマツマキチョウなどお馴染みの種類です。


1969.6.25 蝶蛾切手

タイリクコムラサキ
Apatura ilia ♂
(タテハチョウ科)
クロオビノコギリスズメ
Proserpinus proserpina
(スズメガ科)
モンキチョウ
Colias erate ♀
(シロチョウ科)

ジョウザンヒトリ
Pericallia matronula
(ヒトリガ科)
ウラギンスジヒョウモン
Argyronome laodice
(タテハチョウ科)

ヨツモンシタベニヒトリ
Callimorpha quadripunctaria
(ヒトリガ科)
クモマツマキチョウ
Anthocharis cardamines ♂
(シロチョウ科)
ダフニスヒメシジミ
Meleageria daphnis ♀
(シジミチョウ科)


1983年には自然保護シリーズ16種連刷切手の1枚にダイセヒトリ(蛾)が描かれました。


1983.10.28 自然保護

ダイセツヒトリ
Apantesis quenselii
(ヒトリガ科)


1985年に再び6種の蝶と蛾のシリーズが発行されました。サイズは1969年のシリーズとほぼ同じ大きさなのですが、背景がすべて水色で統一されていたり、蝶の描き方が荒くなっていたりと、1969年よりも雑な仕上がりになっているように思います。ルーマニアの切手は東欧諸国の中でもあまり出来がいいとはいえません。1956年の最初のエゾシロチョウを描いた切手は素朴で味があって好きなだけに残念です。選ばれいる蝶と蛾はやはりお馴染みのものばかりです。


1985.7.15 蝶蛾切手

クジャクチョウ
Inachis io
(タテハチョウ科)
キアゲハ
Papilio machaon
(アゲハチョウ科)
ヨーロッパアカタテハ
Vanessa atalanta
(タテハチョウ科)

ヒメクジャクヤママユ
Saturnia pavonia
(ヤママユガ科)
シロスジヒトリ
Ammobiota festiva
(ヒトリガ科)
ヨーロッパウチスズメ
Smerinthus ocellatus
(スズメガ科)



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